知っている方はどのくらいいるだろうか。昭和33年に発売された極めて先進的な機構を持つと共に、デザインは発表時のパンフレット、取扱い説明書も含めてGKインダストリアル研究所(榮久庵憲司率いる世界的に著名なGKデザイン機構の前身)が担当という画期的な一眼レフカメラだった。
世界初のクイックリターンミラー連動完全自動絞り、ペンタプリズム脱着、F1.2大口径標準レンズ、その装着を可能にする外爪バヨネットマウント、蝶番式裏蓋開閉など当時世界最高といえるスペックを持っていた。製造は東京都中野区、今のサンプラザ近くでライカ、コンタックス、ニコンSマウントレンズやミランダなどカメラメーカー、さらに8/16mシネレンズ供給を行っていたズノー光学工業だった。しかし、発売と同時に外注部品の精度の問題から不具合が多く仕様の変更に追われるなど問題を抱え、僅か1年ほど約500台で終わってしまい、現在残された個体も満足に動作はごく少数といわれている。その後レンズ供給先のカメラメーカーの倒産や、労働争議も起こり赤旗林立を中学時代中野区に住んでいた私は目撃、間もなく昭和36年に倒産した。
しかし、先ずデザインがあって設計されたと思われるその姿は素晴らしくいつかは所有したいの願望を持ち続けている。余分なものをすべてそぎ落とし、ペンタプリズム部分も設計段階ではもう少し高かったものを、技術的改善を加えて低く押さえ全体のバランスをとり、能の精神の具体化といわれるデザインが実現した。またシャッタ-ボタンが軍艦部でなく前面にあるのもユニ-クだが、これはシャッターを押すときに力が下向きにかかり、ボディが押し下げられ手ぶれにつながりやすいのを、力の向きを水平方向にし、ファインダーを覗くためおでこが接眼部分に当たっているのでボディが動くことがないという優れた設計なのだ。さらにボディにストラップをつける吊り輪が普通は左右側面にあるのが、ズノーでは斜め45度前方に設けられている。標準レンズを着けストラップで首から掛けたときに前倒しにならないようにバランスがとられているのである。このようにすべてのパーツに無駄がなく、余計な装飾もビスもない美しく、それでいてソリッドな存在感のある洋の東西、新旧を問わず最も優れた工業デザインとしてのカメラの具体例と思っている。
残念なことにその残存個体数の少なさから、実物に会える機会がほとんどない。時にカメラ雑誌で希少品として、あるいは工業デザインの好例として取り上げられたり、まれに取引の例を聞くことがあっても100万を遙かに越える価格で雲の遙か上状態。
そうした時偶々新宿高島屋で「新宿クラシックカメラ博」を覗いた。するとなんとズノーペンタフレックスが展示されていて驚嘆した。中学以来だから55年ぶりの対面。聞くと快く見せてくれ手に取ることもでき、その凛とした美しさ、手触り、構えたときのバランスの良さ、巻き上げレバー、シャッターボタン位置、そしてZunowのロゴも、全てが完璧。しかも部品の修復も行われ完全動作。写真も撮らせてくれ(興奮のあまりピントが少しはずれて残念)涙がでるほど感激の一時だった。しかし、しかし、その価格も驚愕の一言、180万円!!!。う〜〜〜ん。
今でこそ外注部品で問題が・・・などということはないが当時はで、またズノー光学工業初のカメラであったせいも考えられるが、結果短命で終わってしまった。正常に量産が進んでいたら、間違いなく世界にもその端正なデザインを伴って大きく飛躍したものと思われる。その後の倒産という悲劇的ストーリーと共に幻となってしまったズノーペンタフレックスは、多くの人の心を捉えて離さない歴史に残る製品、いや文化財といえる。
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