2018年9月11日火曜日

SONY TR-72

50年来入手したかったSONY TR-72をやっと手に入れた。東京通信工業時代の昭和30年暮れに発売され単一電池3本を使う木製キャビネットのハンディラジオ。当初価格23,000円は当時の国家公務員初任給が9,800円程に比ベ大変高価だった。

 

ヤマハ製ともいわれる桜材の本体は凝った作りで今も全く狂いがない。さらに使われている金具も真鍮で磨くと当時の輝きを取り戻す。もちろん内部もICではないディスクリート。楕円形のトランジスタを初め部品はオリジナル(ダイオードは交換されているようだが)、正常に受信する。驚くのはその音、ピクニックで屋外に持ち出した折でも十分な音量と、何よりその音質は木製キャビネットと口径の大きなスピーカーによって今どきのデジタル臭いものとは全く次元が違う心地良さだ。初期トランジスタラジオ特有のサーッと言うノイズもほとんどなく石を選別したのだろう。またこの時期のゲルマニウムトランジスタは後のシリコンより音がよい定評がある。

 

技術の進歩によって高機能なものが安価に提供されているが、およそラジオを聞く本来の機能は当時完成されていたと言える。さらに前述の部品夫々が現在もその機能を果たしていることは驚きである。当時の技術レベルの高さと欧米に追いつけ追い越せの気概が伝わってくる。主にカナダに輸出されそのデザインと品質で好評をはくし、現在もファンがいてeBayでも高額で取引されている。大学時代裕福な友人宅に行ったときに見て欲しかったことを思い出す。幸いほぼオリジなると思われる個体でソニー製品の特徴でもあった素晴らしいデザインと、今も保持している性能を日々楽しんでいる。

 

技術革新で安価に様々な電気製品が入手できることはよいことだが、趣味性に根ざすものには別の評価基準があって良い。現在も古き良き時代の雰囲気を残し復活させている例がイギリスにある。ロバーツというやはりハンディラジオで1950年代の外観を踏襲していて、一台一台今も手作りというから驚く。残念ながら内部はICによる現代的なもの。

 

TR-72の内部を見て気付いたのが当時大変貴重だったトランジスタの配線である。ごく初期のモデルにはソケットを使ったものがあるようだが、それはプリント基板にハンダ付けの際熱による損傷を避けるためであった。写真では分かりにくいがその足を曲げて挿入している。コンデンサーなどの足にも同様処理がみられる。これも熱対策で、品質保持に務めていた。こうした気遣いは正に日本的。真空管ラジオもそうだがアナウンサーの声がちゃんと人の声に聞こえる。やたら高機能な家電、値段は高くなるしマイコンが壊れたら機械部分がなんでもなくてもそれまで。使い方がわからないボタンがいっぱい、などというのいはおかしい。TR-72は今でも修理が可能。こうした我が国の高度成長を支えた優れた工業製品を大切にしたい。

 

 

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